振り飛車4→3戦法 (マイナビ将棋BOOKS)戸辺 誠
「人様の本をレビューできる本を書けているのか」と突っ込まれると恐縮なので普段は本のレビューはあまりしないのですが、この本だけはしないといけないと思っていました。拙著:
定跡裏街道~角交換振り飛車編~ と類似の内容も多いからです。将棋倶楽部24などでも、この本が出ると決まった時から指す人が気持ち増えた気がします。戸辺先生効果恐るべし(笑)
振り飛車4→3戦法は、名著:
島ノート 振り飛車編 で紹介されている343戦法を戸辺流にアレンジした新戦法ですが、細かな駒組みは343戦法のそれとは異なります。343戦法では第1図のように△3五歩と突いてから△4二飛と途中下車して石田流を目指します(第2図)。
しかし振り飛車4→3戦法では序盤の乱戦をできるだけ避け、より安定感を求めた結果、第3図のように△4二飛とします。そして△3五歩を突かずに△3二飛として石田流を目指すようになっています(第4図)。
私もこの駒組みは
定跡裏街道~角交換振り飛車編~ でも紹介していますが、先に△3二飛とするのは本当に色々な意味で得があります。戸辺先生の本は総じて非常に丁寧でわかりやすい本が多いのですが、その利点が凄くわかりやすく書かれていて、この本もやはり素晴らしい一冊でした。対象棋力は、初心者から上級者くらいでしょうか。ただそれ以上の棋力の方も、参考になる事は多いと思います。
第1章は、先手が後手の石田流や升田式石田流を防ごうとして▲2四歩から攻めようとしてきた場合(第5図~第7図)が書かれています。考えられる様々なタイミングに対してそれぞれ節を用意しているのは、初心者にもわかりやすい構成で、私も見習いたいです。「△3二飛のタイミングで▲2四歩」「△3五歩のタイミングで▲2四歩」の節は特にわかりやすさを意識していて、普通の本だとスルーしてしまいそうな変化にもしっかりページを割かれており、非常にわかりやすいです。私はもっと変態的な対抗策を「343戦法」の節で紹介しましたが(笑)、どちらが良いかは好みが分かれるでしょう。
第2章は升田式石田流に組めた場合の説明が、▲4七銀型と▲5七銀型(第8図~第9図)でされています。▲4七銀型の変化は△3三銀型に組んだ場合の変化がメインで、よくある進行です。ただし▲5七銀型ではあまり思い付かない変化も紹介されており、私も「そんな変化もあるんだなあ」と思いました。升田式石田流を得意とされている方は読んで損はないはずです。
第3章は後手が石田流に組んだ時に先手が角道を止めた場合(第10図)について書かれています。いざ指された時にはこの章で解説されている捌きのエッセンス、手作りの仕方などは参考になると思います。この形になる頻度は少ない気もするのですが、いざこの形になった場合にどうするかという問題もあるので、参考になる事は間違いないです。
第4章は▲6六歩対△3二飛・△3三角型が紹介されています。この節では3つの戦型が紹介されていて、一つは向飛車です(第11図)。私は「432戦法」として紹介しています。私は△3二銀型をメイン(ちょっぴり△3二金型)という形で説明したのですが、この本では△3二金型に絞って紹介しています。△3二金型は△3二銀型よりもシンプルな構想になるのですが、△3二金型もシンプル過ぎるがゆえに…という所もあります。正直どちらが良いのかは今でもわからない所もありますが、いずれにしても面白い構想である事は間違いないと思います。私が書いた△3二銀型はちょっと細かく書き過ぎたと反省してはいるのですが、
定跡裏街道~角交換振り飛車編~ と合わせて読むと面白いかも知れません。ステマです(笑)
他にも先手が穴熊に組む持久戦型も載っています(第12図)。対する後手は石田流に組み換える。この構想は正直に言って非常に新鮮な構想でした。おそらく初公開の構想で、最も興味深い内容でした。実際に指すとどれほどのものかは私も興味深々ですが、石田流が好きな人は要チェックの戦型だと思います。また穴熊に組むと見せて▲6五歩とする手も紹介されていました。この変化はかなりざっくりとした狙い筋の紹介に留まっておりやや脚色が入っている印象もあるのですが、こういう変化もあるよという、読者に対する宿題ページでしょうかね。
以降の章は「先手番」での相振り飛車(第13図)なので私の書いた本とは大きく異なるのですが、相振り飛車でも4→3戦法というのは今までにない試みで面白いです。内容はかなりざっくりですが、狙い筋をしっかりと書いてあるので、やはりとてもわかりやすいです。相振り飛車の本は狙い筋がしっかりしていると読みやすいので、私はとても面白く読ませて頂きました。
かなり長い感想になってしまいましたが、こんな感じでしょうか。振り飛車4→3戦法を使えば対居飛車も、対振り飛車もいけるぞ、という三間飛車党の人を意識した構成になっているのは、三間飛車党の人にはポイントが高いところではないでしょうか。やっぱり戸辺先生の本は非常にわかりやすいです。私も次回作はもっとわかりやすい本にしたいと思います!