最近面白い戦法は色々あるのですが、その一つは雁木(とその派生戦法)です。とは言っても、雁木は勝ちにくい戦法と言われて久しく、最近ではレア戦法になっています。そこでまずは「本気の雁木は強い」という事を見ていきたいと思います。
基本編
まずは勝率の推移を見てみましょう。出展はkifuexpl+2chkifu(~2010)+将棋棋譜集(2011~)。雁木は後手番で利用される事が多い事や、確認のしやすさから後手勝率で算出しました。先手雁木の可能性もある上、雁木らしくないものも含まれるのでいい加減ですが、1980年からの累計後手勝率は72/137=0.525。直近10年の結果だけを見ても23/45=0.511。評判とは裏腹に良い勝負をしています。
次は雁木の中での戦型について考えてみます。代表的な戦型に対して、プロ棋譜を例に私の印象を書いてみます。まず雁木というと居角で一気に殴り倒すというイメージが強いですが、最近のプロ間ではそういう印象はなく持久戦になりがちです。その中でも雁木対策として有名なものとしては以下の2つです。
- ▲26角型・▲37角型(第1図)
- ▲57銀・▲67金型(第2図)
雁木が勝ちきれないというイメージは、私の場合、この2つの対策のインパクトが大きかったです。しかし最近では加藤一二三先生が連載している△73角型・△84角型が出てきました(第3図)。
角を転回して先手の陣形に制約をかければ、先手は予想以上に動きが取りにくいです。加藤一二三先生の駒組みの面白さは、さらに早い段階で2筋の交換を強要する事です。あえて2筋の歩を交換させる事で、▲26角型・▲37角型にさせない、させても怖くないという駒組みができるのです。第3図以下は雁木が負けてしまいましたが、第3図は雁木が駒組み勝ちしている局面だと思います。
しかし△73角・△84角と、ただ角を転回すればそれで後手満足かというと、そういう訳でもありません。雁木の弱点である1筋に狙いを定められると難解です。とはいえ、後手は主導権を握りやすい将棋になりますし、いつでも6筋を攻める権利を生かせば良い勝負ではないでしょうか。
現在編
後手も指せそうと思う一方で、やはり雁木はプロ間ではあまり指されませんし、駒組みの都合上、△73角型・△84角型にも、1筋端攻め型にも滅多になりません。しかしつい最近、雁木の大家である加藤一二三先生と森内俊之先生の間で雁木が指されました(第4図)。
2012-07-20 第20回富士通杯達人戦準決勝 ▲森内俊之△加藤一二三この将棋も1筋端攻めの形ですが、通常矢倉にして6筋を手厚くしながら手待ちしたのが大きな変更点と言えると思います。後手は若干駒組みに余裕があり、主導権も握っている印象があるのですが、1筋端攻めをどうやって余すかが問題です。ゆっくりし過ぎると、本譜のように駒組みは気持ち良くてもなんだかんだと手を作られます。森内先生の端攻めがうま過ぎます。
この端攻めをどう受けるのが最善かはわかっていないのですが、そもそも端に絡まれると煩いと考え、雁木らしく6筋から猛攻をかける筋(第5図)もあるかなとも思っています。他にも様々な対抗策がありそうですし、いずれにしろ雁木は有力というのが現在の見解です。
以上が最近の雁木の話。非常に長かった割にここまでは前置きで、次回が本題です(笑) 雁木も指せるとなると、俄然有力になってくる戦法があります。